標題1

(注1−2) ナイヤガラ-トロント線(世界初の全線鉄塔使用)
Niagara-Toronto Line




 世界で初めて、全線に鉄塔を使用した送電線が、1905年(明治38年)9月末に、カナダのトロント&ナイヤガラ電力(Toront & Niagara Power Company)により、カナダのナイヤガラ水力発電所〜トロント間、約120Kmに建設された。

 その建設ルートは右図の通りである。

 送電線電圧は、60kV、周波数は25Hzでナイアガラ水力発電所の出力3万kWを2回線鉄塔・2ルートの4回線でトロントに送電する計画とした。

 本送電線は、世界初となる鉄塔使用線路であり、その鉄塔設計、基礎設計、耐雷設計、耐氷雪設計および現地適用設計と初めて尽くめの諸設計なので担当技術者は大変苦労されたことと思われる。

 特に、雷に対して、初めての鉄塔線路がどのような様相を呈するか(効果を発揮するか)は、当時、全く未知数で、技術者たちは固唾をのんで見守っていたようだ。

 4年前の1901年にサンフランシスコで世界初の鉄塔が建設されたが、その時はピンがいしが設置されたアームは耐雷設計上木製アームとした。

 ピンがいしが、地表電位と同等の鉄塔材に直接取り付けされるのは初めてであったので、当時の技術者達はどうなることかと、大変心配したようだ。

 送電線には、ほぼ等間隔で3箇所の開閉所を設けて線路を4等分し、4回線の回線運用を効率的に出来得るようにした。
 すなわち、起点から30km地点に第2開閉所、64km地点に第3開閉所、98km地点に第4開閉所を設置した。

 

 


 この送電線は、右の断面図のように電線を正三角配列とした2回線矩形鉄塔を使用、並走する2ルートの中央にほぼ全線に亘って電気鉄道が走る設計とした。

 このルートは、中央に鉄道があるためルートの水平角度は鉄道の湾曲で制限され、湾曲率は3.5度以下または半径500m以上の湾曲になるように設計された。

 電線は正三角形配列で、その一辺の長さは1.84mである。

 送電線ルートの直線部分では、標準径間長は122m(400フィート)として、水平角度がある径間ではそれより狭くした。
 そのため、こう長120kmで鉄塔数は約1,400基(平均径間長:約86m)となった。

 


 ルートの途中には、運河があったり川横断があり、そのため長径間および高鉄塔が必要になる箇所が数カ所ある。

 最も高い鉄塔が必要になった箇所は、ナイヤガラ発電所から約11kmの地点にあるウエランド運河(Welland Canal)横断箇所(ルート図参照)で、右図のように最低電線水面高が46m必要なため、鉄塔の電線下相高さが41m必要になり、標準鉄塔の12.2mに対して3倍以上の高鉄塔を建設することになり、特殊鉄塔を開発適用した。
 この高鉄塔には避雷針を取り付けた。


 標準的な鉄塔形状は右図のごとくで、直線箇所の標準径間長は122m間隔である。

 設備の建設は、まず1ルートの送電線を先行建設し、続いて2ルート目を建設し、その後にルートの中心に電気鉄道を建設することになっており、写真は送電線1ルート目の建設が完了した時点に撮影したものである。

 従って平行して建設される電気鉄道と送電線2ルート目はまだ見られない。


 右図は、亜鉛メッキした等辺山形鋼および不等辺山型鋼を使用するとともに、がいしを取り付けるクロスアームと垂直材は特強パイプを用いた標準鉄塔構造図であり、単位はインチである。

 基礎は、1.8mの深さで、線路方向にほぼ45度の角度で掘削し、線路と直角方向は0.6mの幅で、ほぼ垂直堀りした。

 固い地盤の箇所では、地表から0.76mまでの穴の部分については石を詰め、残りの部分にはセメントと漆喰を4対1で満たした。

 沼地などの軟弱な箇所では掘削穴の底に長さ0.9m、幅0.6m、厚さ0.15mの木材を敷き、その上に根架をセットして、地表から0.76mの部分までは、掘削土を満たし、その上に長さ0.6m、直径10cmの亜鉛メッキした鉄パイプを基礎材の周りに被せ、その中にセメントを充填させた。

 


 右の写真は、望遠レンズで撮った写真で、鉄塔間隔が狭く見えるが、2番目の鉄塔に注目してもらうと、他の標準鉄塔と異なるアーム形状をしているのが分かる。

すなわち撚架鉄塔である、標準鉄塔から右又は左に3相の電線配置を回転させると、各相の電線位置が撚架鉄塔の前後で1/3回転する。更にもう1基撚架鉄塔を設けると更に1/3回転するので、起終点間に2基を等間隔に設置すると各相の電線位置履歴が等しくなり、完全撚架ができる。(下図参照)

  ルートのうち、ナイヤガラ変電所起点から約80km〜96km間(約16km区間)は、他の鉄道と接近・平行するので、他の区間に比較し特に頻繁に撚架し、4回の完全撚架を実施した。


 撚架を実施する区間を3等分(起点側区間、中間区間、終点側区間)して、各区間の境に撚架鉄塔を2基配置すると右図(左回転)のように各相の配置履歴が等しくなり完全撚架が1回できる。

 撚架鉄塔を使用しないで、電線を回転させると、径間中央で各相の相間間隔が狭まり、所定の相間距離が確保できないため、撚架鉄塔が必要になる。


 本送電線ルートには、オンタリオ湖に流れ出る河川と交差する箇所が多くあり、そのいくつかの場所では標準径間122mを超過せざるを得ない箇所がある。
 その一例がルート図にあるブロンテ川(別名「12マイルクリークTwelve Mile Crek」)を横断する径間で、190.6mの径間長になる。

 このような場所では、保守上、中央に走る電気鉄道の両側に送電線を通すのは好ましくないので、片側に送電線2ルートを寄せる設計とした。

 右写真は、まだ2ルート目の送電線および鉄道の建設が開始されていないが、片側に送電線2ルートを寄せる部分に水平角度45度で横断する特殊設計鉄塔である。

 1条の電線を3個のがいしを直列に配置して引留めている。
 また、鉄塔部材のうち2本の圧縮側の主柱材には4本の複合部材(3in×3in×1/4in等辺山型鋼)を12.7mm×6.4mmの鋼板をリベットで格子状に組み合わせて使用している。
 また、鉄塔長辺の長さは地上位置で6.1m、頂点で8.3mである。


 冒頭のルート図に記載したブロンテ川(190.6m)およびクレディット川(233.6m)等を横断する長径間箇所では、がいしを直列に3個使用し、右写真のように電線を支持させた。

 鉄塔についても標準鉄塔の部材より強化して、4本の主柱には3in×3in×1/4の代わりに4in×4in×3/8の等辺山型鋼を、また、3in×3in×3/16の代わりに4in×4in×5/16の等辺山型鋼を使用した。

 




 ルートの途中で、オンタリオ湖に向かって高さ約50mの急斜面の崖っぷち上部を通過する部分がある。(ルート図参照)

 この区間約8kmについては、落雷の頻度が高いと想定し、鉄塔の中央部に電線より約2m高い位置に架空地線を架線することとし、右図のような鉄塔構造とした。

 架空地線には、亜鉛メッキ鋼撚り線を使用した。


 がいしは、右写真のように3つの磁器の笠を組み合わせて製作されている。

 その上薬の色は茶色とした。

 絶縁体の高さは356mmで、最上部の笠の直径は356mm、中央部の笠径は254mm、最下部の笠径は203mmである。



 電線は、硬銅撚線96muを使用しており、その抗張力は3.7tonである。
 また、1ドラムの長さは915mである。

 直線スリーブは、撚回式スリーブを使用した。

 送電電力は、電圧で10%の損失で受電端で1回線当たり7,360KWである。
 また、20%の損失を許容すれば、100%の力率で2回線で31,600KWを送電線可能である。


 さて、鉄塔に加わる横荷重は、電線1条当たり756kg、鉄塔全体では6条の電線を架線しているので4,526kgとなり、その荷重に耐える設計としている。

 具体的には、冬期、着氷厚さ12.7mm、風速45m/sの条件で設計している。

 

 電線の最低地上高は、7.6mに設定されており、標準径間長122mでは、鉄塔のピンがいしに留められた電線地上高が12.2mなので弛度は4.6m(15ft)以下にする必要がある。

 径間の中間で地表の高さが鉄塔地点に対して高低差かあり、高い場合には標準弛度4.6mで架線すると規定の電線地上高が確保できない所がある。
 

 現在では、電線地上高を確保する手段としては、鉄塔建設地点は変更せず、鉄塔高さを高くして電線地上高を確保することとしているが、本送電線ではあくまでも標準鉄塔を建設することとして、径間長を狭めて対応する手段を選択した。

 すなわち、
●弛度を4.3m(14ft)以下にする必要がある場合は、径間長を106.8m(350ft)、
●弛度を3.4m(11ft)以下にする必要がある場合は、径間長を91.5m(300ft)、
●弛度を2.4m(8ft)以下にする必要がある場合は、径間長を76.3m(250ft)、
に設定した。


 鉄塔は、製作メーカーから数カ所の組立地点に搬入されて、そこで組み立てられ、長さ9mの木製4輪ワゴンに載せられて各鉄塔建設地点に馬に引かれて運搬される。

 そして、建設地点に到着すると車軸付きの車輪の2輪がワゴンの材木ボディから分離される。


 分離されたものは、一種のデリックとして垂直に立てられる。

 そして、一組のブロックと滑車装置はデリックの上部にセットされ、そこから鉄塔の4分の3地点にローフで接続する。


 馬の力を利用して、鉄塔を引き起こし、基礎材の上部に鉄塔をセットする。

 この時反対側から、鉄塔の動きを抑制するロープを張り、徐々に引き上げる。


 最後に、基礎材と鉄塔最下部の部材をボルト締めして完了である。

 この木製ワゴンを活用することで、工事行程および工事労働者の効率化がはかれ、工事費の低減に貢献することが出来た。




 ルート上の3箇所に設けられた開閉所の結線図である。

 画面の上部に避雷器があるが、GE製だそうである。

 また、赤色の四角形で示したものはオイルスイッチである。

 ルートのうち、不具合が発生した区間あるいは点検を必要とする区間をを停止させて、自由に接続変更できるように配慮されている。

 

 このタイプの鉄塔は、同年の1905年、メキシコでネカクサ(Necaxa)水力発電所〜City of Mexico〜エル・オロ(El Oro)間、約270Kmほどの60KV送電線でも使用された。

 カナダの送電線は既に撤去されてしまったが、この度(2012.02.21)Google earthで、メキシコの送電線は現役で運用されているのを確認出来た。
 現地に行くと現物を見ることができる。
 (最近のトピックスNo47(2012.02.22)参照)

 さらに、我が国では、全く同一設計ではないが、このタイプの鉄塔を参考にしたと思われる線路が、下記の通り建設された。
●1912年、名古屋電灯により、八百津発電所〜荻野変電所間42Kmに60KV八百津線が建設された。
●1913年、富士ガス紡績により、66KV東京幹線(後の酒匂川線、峰発電所〜駒沢間、73Km)が建設された。
●1913年、桂川電力により、77KV谷村線(鹿留発電所〜目白間、95Km)が建設された
(当HP「歴史に残る送電線」に掲載)
 


 

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